皆さんこんにちは!
おうちパン(自称)脱初心者のにしやまるです。
パン作りだけでなくお菓子作りや料理にも活躍する「バター」。
バターは「牛乳から分離したクリームを練って固めた食品」と定義することができ、スーパーなどで市販されているバターには「加塩バター」「食塩不使用バター」「発酵バター」という種類があります。
しかしながら、その違いについてあまり深く考えたことがない人が多いのではないでしょうか。
そこで今回はそれぞれのバターの違いについて、4社の乳業メーカーさんへ問い合わせた回答も踏まえて解説していきたいと思います。
・そもそもなんで加塩するの?
・無塩バターと食塩不使用バターは別のもの?
・食塩不使用バターの方が価格が高いのはなぜ?
・食塩不使用バターは加塩バターで代用できる?
といった疑問にもお答えする内容となっておりますので、バターの使い分けに悩まれている方、改めて違いを確認したい方はぜひご覧ください。
一般的なバターの製造方法
まずは一般的なバターの製造方法概要から確認していきましょう。
・生乳から遠心分離によりクリームを分離
↓
・クリームを低温で撹拌し脂肪球を凝集させバター粒を形成
↓
・バター粒を水洗
↓
・(加塩)
↓
・バター粒を練り合わせ、滑らかで良質なバター組織を形成
↓
・充填、包装
※一般社団法人Jミルクさんのページでより詳しい製造法が紹介されていますので、ご興味ある方は下のリンクからどうぞ!
加塩/食塩不使用(無塩)バターの違い
加塩バターと食塩不使用バターの違いは、
製造工程において、食塩を添加するか、しないかの違いのみです。
では「食塩不使用バターに自分で食塩を添加すれば同じになるか」というと、厳密にはそうはなりません。
「製造工程において加塩し、練り合わせている」というのがポイントで、特に製菓、製パン用途ではそれが仕上がりに影響する場合があります。
詳しくは後述します。
無塩バターは食塩不使用バターの昔の呼び方
昔「無塩バター」と呼ばれていたものが、今では「食塩不使用バター」と呼ばれて売られています。
バターには食塩無添加で製造したとしても生乳に由来する塩分が微量に含まれています。
そのため厳密には「無塩」とはならず、2013年に出された厚生労働省の栄養表示基準に則って表示が改められたのです。
加塩の目的は風味と保存性の向上
バターに加塩する目的は、一般的には風味と保存性の向上と言われています。
少量の食塩添加により単純に塩味の付加だけにとどまらず、香りや甘みも引き立ちます。
つまり、調味目的でのバターの使用を考えた際には、加塩した方が「おいしくなる」のです。
主に製菓、製パン用途でのみ使用される食塩不使用バターよりも調味目的の加塩バターの方が需要が多く、また加塩することで保存性が向上し、賞味期間を伸ばす効果もあることから加塩バターが一般的になっているわけです。
食塩不使用バターの方が価格が高いのは乳成分の割合が高いため
加塩バターは添加する食塩の分だけ量が増されるため、食塩不使用バターと比べて乳成分の割合は低くなります。
そして、食塩と乳成分(生乳/クリーム)とでは食塩のほうが価格が圧倒的に安いため、乳成分の割合が相対的に低い加塩バターの方が原材料費が安くなるのです。
仮に、バター原料のクリームが1000円/kg、食塩が50円/kgだとすると、200gのバターにかかるそれぞれの原材料費は、
・加塩 :1000円×0.2kg×98.5%+50円×0.2kg×1.5%=197.2円
・食塩不使用:1000円×0.2kg=200.0円
※加塩バターへの食塩の添加量は概ね1.5%程度と言われています。
となり、加塩バターの方がわずかに安くなります。
加えて、上述の通り加塩バターの方が一般的で製造量も多いことから相対的にコストを低く抑えることができます。
このような理由から、一般的に加塩バターの方が価格が安く、食塩不使用バターの方が価格が高くなっているわけです。
発酵バターは発酵工程を経て製造されるバター
発酵バターは読んで字のごとく「発酵させたバター」のことで、クリームに乳酸菌を加えて発酵させてからバターにする製法と、バターに乳酸菌を加えて発酵させる製法のどちらかで製造されます。
日本ではあまり流通していない発酵バターですが、ヨーロッパでは古くから一般的に使用されていて芳醇な香りが特徴とされています。
ちなみに発酵バターにも「加塩/食塩不使用」の種類があるため、バターは「無発酵、加塩」「無発酵、食塩不使用」「発酵、加塩」「発酵、食塩不使用」の4種類に分類されることになります。
食塩不使用バターを加塩バターで代用するときの注意点
食塩不使用バターを使用する製菓、製パン時において「加塩バターしかないからこれで代用したい!」「でも極力レシピ通りに!」という場合の考え方と注意点を見ていきましょう。
食塩を添加しない配合の場合は代用困難
例えばお菓子作りで生地に食塩を添加しない配合の場合、加塩バターを使用してしまうと食塩が添加されてしまうので、風味が大きく変わってしまいます。
良い悪いは別として想定されている風味とは異なる仕上がりになりますので、レシピ通りということであれば大人しく食塩不使用バターを買ってきて使いましょう。
食塩を添加する配合の場合は食塩添加量を調整
まずは使用する食塩不使用バターの量を加塩バターで全量置き換える場合の量の補正を行いましょう。
(加塩バターは食塩が添加されている分バター含量が低いので、補正なしでそのまま置き換えるとバターの量が若干少なくなってしまいます)
例えばレシピ上の食塩不使用バター量が40g、使用する加塩バターの食塩添加率が1.5%だとすると、必要な加塩バターの量は、40÷(1-0.015)=40.6g となります。
このとき、40.6gの加塩バターには 40.6−40=0.6g の食塩が含まれていますので、例えばレシピ上の食塩添加量が5gだった場合、5−0.6=4.4g に食塩添加量を補正してやれば配合されている食塩の「量」としてはレシピ通りとなります。
食塩添加量を調整しても全く同じとはならない理由
食塩不使用バターを加塩バターで代用する際の食塩添加量の調整は上記計算できっちり行ったとしても、お菓子やパンの仕上がりが同じになるとは限りません。
それは、加塩バターに含まれている食塩は製造工程で練り込まれて油脂にコーティングされた状態で存在しているのに対し、食塩不使用バターに後から食塩を添加した場合にはその食塩は水分に溶けた状態で存在することになる、という違いがあるからです。
つまり、生地に「加塩バター」あるいは「食塩不使用バター+食塩」を混ぜた場合の食塩の状態を模式的に大げさに表すと以下のようになっているわけです。
このような存在状態の違いによって生じる可能性のある仕上がりの違いには以下のようなものが考えられます。
・加塩バター使用では食塩がバターでコーティングされているため塩味を感じにくい。
・塩味を感じにくいことによって甘みや香りの感じ方も変わる。
・「バターにコーティングされた食塩」と「水に溶けた食塩」とではグルテンへの作用が異なるため、お菓子やパンの膨らみ、食感が変わる。
生地の配合中の食塩添加量に占める加塩バター由来の食塩量が多くなればなるほど食塩不使用バターとの仕上がりに違いが出てくると考えられますが、どの程度でどのような違いが生じるかは実際に試作してみないことにはわかりません。
大切なのは、食塩添加量を調整したとしても同じにならない可能性があると認識しておくことです。
一方で実際のところ、食塩を添加する配合の場合は最低限添加量の調整さえすればたいてい上手においしく仕上げることができます。
家庭で楽しむ分にはあまり細かいところを気にして難しくしてしまってもあれなので、状況によって臨機応変に選択しても良いのでは、というのが私の意見で。
そのうえで、「バターを変えるとこんなに仕上がりが変わるんだ」とか「意外と変わらないな」みたいなところを楽しみながら探求することができれば、それは技術や経験の蓄積という意味で大変良いのではないでしょうか。
◇◇◇
さて今回は曖昧になりがちなバターの違いについて解説してみましたがいかがだったでしょうか。
何事もそうなのですが「知らないで何となくそうしている」のと「きちんと理解したうえで考えてそうしている」のとでは大きく違います。当然後者の方が細かな変化にも気づきやすいですしそれが自身の成長にもつながります。
私自身、今回の記事作成にあたって乳業メーカーさんに問い合わせて気付かされたこともありますし、より深い理解とすることもできました。
やっぱりなんでもしっかり調べて自分のなかで整理しておくことは重要だなと再認識させられましたし、これからも研究開発者の端くれとして貪欲に知ろうとすることを怠らないようにしたいと思います!
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